「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督&ライアン・ゴズリングのコンビが、人類で初めて月に降り立った宇宙飛行士ニール・アームストロングの半生を映画化した伝記ドラマ。人類初の有人月面着陸という壮大なミッションに立ち向かった男たちの過酷な道のりと、歴史的偉業を成し遂げたアームストロング船長の知られざる素顔を、圧倒的臨場感の映像とともに描き出す。共演はクレア・フォイ、ジェイソン・クラーク、カイル・チャンドラー。
あらすじ:1961年、空軍でテストパイロットを務めるニール・アームストロングだったが、幼い娘を病で亡くす。寡黙な彼は、悲しみに暮れる妻ジャネットの前でも感情を表に出すことはなかった。しかし悲しみから逃れるべくNASAのジェミニ計画の宇宙飛行士に応募し、みごと採用される。それは、宇宙開発競争でソ連に後れをとっていたアメリカが、人類未踏の月を目指すために欠かせない技術を確立するための計画だった。宇宙飛行士たちに課されるいくつもの過酷な訓練をこなしていく中で、エリオット・シーやエド・ホワイトら飛行士仲間との間に確かな絆が結ばれていくニールだったが…。
<感想>全く毛色の異なる物語で映画界に新風を巻き起こしてきたデイミアン・チャゼル監督が、今度は人類にとって偉大な飛躍となった壮大なミッションの映像化に挑む。チャゼルが次に世に送り出すのは、人類史上初となる月面着陸計画に人生を捧げた、アポロ11号の船長ニール・アームストロングの人生を壮大なスケールで描く『ファースト・マン』。
50年前に、月面に人類最初の一歩を踏み出したニール・アームストロングだが、本作では歴史に名を残したヒーローではなく、冒頭での宇宙飛行士への応募直前のこと、次女のカレンを悪性腫瘍で亡くしたこと。そのことが、彼を喪失感と死と隣り合わせの緊張感に苛まれながらも、宇宙開発に身を捧げたアームストロングの孤高の姿を映し出した秀作です。
実際、失敗したミッションやアポロ陰謀説でしか描かれてこなかったのだが、本物の映像が残っているだけに、アポロ11号を映画化したところで最新の技術で再現する以上の面白さがないと判断されたのだろう。
そこで監督は、アームストロング個人の視点を徹底させることで、宇宙開史ものにつきものの説明を省いて、大胆な省略をおこなっていた。何せ月面に降り立つ場面はあっても星条旗を立てるカットすらないのだから。
アームストロングが乗ったジェミニ8号の発射シーンも、見守る観衆などは登場しない。カメラは宇宙飛行士と共に狭いカプセルに密閉されたまま、打ち上げから宇宙空間に到達するまでを映し出していた。
派手なVFXではなく、室内に響く爆音と激しい揺れ、そして金属が軋む音だけを見せきってしまうのだ。こうした体感的な描写は、アポロ1号の司令船内部の場面でも恐ろしい形で発揮される。息を呑むほどの緊張感とダイナミックな映像、まるで一緒に宇宙空間を旅しているような臨場感が、全人類が夢見た彼方へとあなたを誘うのだ。
まるでアームストロングたちと共に宇宙船に乗り込んだ感覚になる。宇宙に飛び出した瞬間や月面に着陸した時の瞬間はもちろんだけど、恐ろしいほどの閉所恐怖症になる感じや、ガタクタのように危うい宇宙船で飛び立った彼らの極限の恐怖も体感することになる。
アームストロングが月面に立った時のあの有名な一節、「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」これはとても有名な名言であるが、とても謙虚ですべてを広い視点で捉える彼の特性を表していると思う。彼は自分を英雄とは一切思っておらず、人類の代表者という意識だったんだと思った。
死と月面、二つの未知の世界、そこに広がる闇の奥深さを見つめるアームストロングは、宇宙への挑戦の中で心身の限界に挑み続け、そうすることで喪失への苦しみ、悲しみに耐える。そんな苦闘の果てに辿り着いた月面の静寂に包まれて、暫らくは死を受け入れ記憶を解き放つ。
彼は心身ともに制御できない事態に何度も遭遇する。訓練機の高度を制御できずに宇宙を間近に見た時がきっかけで、宇宙飛行士の選抜に加わり、ジュエミニ8号では、アポロ13号に匹敵する危機にさらされており、宇宙船を制御できなくなることも。月面着陸の操作法を練習する時も、上空で機体が操縦不能になってしまう。何度もそういう危機をのり越えて行く途中で、不意に脳裏に浮かぶ亡き娘への感情が溢れ出してきて、抑えきれない事態に陥ってしまう。
真の強さとは心に負った傷がまだ痛んでいても、前に進めること。そして失敗をしてもまた立ち上がれることなんだと。
特に印象深かったのは、月へ向かって飛び立つ直前に、妻のクレア・フォイとのやりとりである。息子たちに何も言わずに家を出ようとする夫に対して、苛立つ妻が「これから何をするのか、自分の言葉で子供たちに伝えて欲しい」と、父親として言うべき言葉を懇願するシーンである。無事に生きて帰れるかどうかが、残される家族の不安は半端ないのだから。
アポロ11号に搭載されていたコンピューターの性能は、なんとファミコン以下という低さ。この作品で宇宙旅行がどれだけ危険なものだったかを強調したかったという、監督の弁。生きて帰れたらラッキーというほど難易度の高いミッションでした。月面着陸は世界史に残る偉業なのに、その詳細や人物については殆ど知られていない。人類で初めて月面に降り立つために払った代償の大きさを表現したかった。偉業の名の下で生まれた歓びや痛み、生き延びた命や失われた命にスポットが当たることを願っていると、これは監督からのメッセージです。
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