「ガープの世界」「アルバート氏の人生」のグレン・クローズが、長年尽くしてきた夫のノーベル文学賞受賞に複雑な感情を抱く妻を巧演して高い評価を受けた愛憎ドラマ。世界的な作家の妻が夫の晴れ舞台を目の前にして激しく揺れ動くさまと、次第に明らかになる妻の夫に対する激しい葛藤の軌跡をミステリアスかつ繊細な筆致で描き出す。共演にジョナサン・プライス、クリスチャン・スレイター。またグレン・クローズ扮する主人公の若き日を実の娘でもあるアニー・スタークが演じて話題に。監督はスウェーデン出身のビョルン・ルンゲ。
あらすじ:現代文学の巨匠ジョゼフ(ジョナサン・プライス)と妻ジョーン(グレン・クローズ)のもとに、ノーベル文学賞受賞の吉報が届く。ふたりは息子を伴い授賞式が行われるストックホルムを訪れるが、ジョゼフの経歴に疑惑を持つ記者ナサニエル(クリスチャン・スレーター)から夫婦の“秘密”について問われたジョーンは動揺を隠せない。
実は若い頃から豊かな文才に恵まれていたジョーンだったが、あることがきっかけで作家になる夢を諦めた過去があった。そしてジョゼフとの結婚後、ジョーンは彼の“影”として、世界的な作家の成功を支えてきたのだ。 ずっと心の奥底に押しとどめていたジョゼフへの不満や怒りがジョーンの中でわき起こり、長年共に歩んできた夫婦の関係は崩壊へと向かう。そして授賞式当日、彼女はこれまで通り慎ましく完璧な“天才作家の妻”を装うのか。それとも本当の人生を取り戻すために、衝撃的な“真実”を世に知らしめるのか……。
<感想>ノーベル賞の栄光に隠された【愛と嘘】。人生の晩年に差し掛かった夫婦の危機を見つめる心理サスペンスである。夫がノーベル文学賞を獲ったとなると、この上なくめでたいはずなのに。だが、妻が夫のゴーストライターだったら、あなたならどうする?。
名前だけの作家としての夫の小説がノーベル文学賞に選ばれたのだ。もちろん妻も嬉しいはずなのだが、内心は複雑、微妙な感じでもある。だって、自分が苦労をして書き上げた小説なんだから。もちろん、著作者の名前は夫である。
内助の功は確かに愛情であり、主題もずばり「愛と献身」。タイトルは原題のほうが良かったと思います。出版界や文壇が男性社会だった過去も描いた物語から見えるのは、女性はややもすると結婚で才能や機会を、自ら諦めてしまいかねないということ。
夫婦のかたちや、社会のなかの女性像を描いているから人間ドラマでもある。夫婦関係と個人の両立の難しさ、女性の社会参がの今昔の隔たりが産む虚無など。難問ばかりで「現在」の映画として見ごたえがあります。
文学の世界に限らず権威は虚構であるようだ。1901年から始まったノーベル文学賞だが、最初の10年は知らない書き手ばかりだったそうです。それが、いつからか著名人が受賞するようになり、多額の賞金を支払う後ろ盾があらわれ、誰もがほしい賞になっていった。
本作ではアメリカ人の小説家の受賞が決まり、妻や息子を連れてストックホルムへ行き、想像どうりの授賞式が行われるのだが、不穏な影がつきまとうのだ。1947年のグレン・クローズが演じた本作のヒロインから事態は、今でもほとんど変わってない。
劇中でクローズが幾度となく見せる、怒りと悲しみを、理性でくるんだような複雑な表情がすべてを物語っているのだ。どの瞬間も見事であり、今年の賞レースノミネートも決まっている。無責任で我儘で、依存心の強い夫を演じるジョナサン・プライスもなかなかの演技者である。
これは特殊な夫婦のケースではなく、すべての女性、そして妻という存在についての映画だからだと思う。若き日の妻の役を演じているのは、クローズの実の娘のアニー・スターク。親子共演とは素晴らしきものです。
だが、記者のクリスチャン•スレーターが出てくることで、一気に現実味を帯びてくる事態には、まさか長年の夫婦の秘密を嗅ぎつけるのではないかと?。
達者な俳優の共演ドラマの安定感に申し分はなく、祝福の声をかけられる度に、見せる妻のグレン・クローズの複雑微妙な表情が主題を象徴しているようだった。そして、妻の決断は無論、単に過去の否定ではないのだ。
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