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生きてるだけで、愛。★★★

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人気劇作家兼小説家の本谷有希子の同名小説を「水の声を聞く」の趣里と「あゝ、荒野」の菅田将暉の主演で映画化した恋愛ドラマ。自意識が空回りしてエキセントリックな言動を繰り返すヒロインと、すべてを諦め何事も受け流すだけの男の不器用な愛の行方を描く。共演は仲里依紗。監督はCMやミュージックビデオを中心に活躍し、本作が長編劇映画デビューとなる「太陽の塔」の関根光才。

あらすじ:津奈木と同棲して3年になる寧子だったが、鬱のせいで過眠症になり、家事もせずに引きこもり状態が続いていた。一方、週刊誌の編集部で働く津奈木も仕事にやり甲斐を感じることもなく、夢を早々に諦め淡々と日々を送るだけ。寧子が感情のままに理不尽な態度を取っても静かにやり過ごすばかり。それがさらに寧子を苛立たせてしまう。そんなある日、寧子の前に津奈木の元カノ安堂が現われる。津奈木に未練いっぱいの安堂は2人を別れさせようと、寧子の社会復帰に向けて世話を焼くのだったが…。

<感想>ほんの一瞬だけでも、分かり合えたら。「勝手にふるえてろ」で非常に印象的な演技をした趣里の初主演映画である。躁鬱の人があんなに走れるのかどうかは分からないが、「私はわたしから離れられない」と言う台詞にある通り、病気により自分を持て余している様の在り方は、非常に切なく、見ていて気の毒になった。

これはやはり趣里の映画であった。走る時のあのアキレス腱、あの裸体、趣里の演じる寧子に魅せられてしまった。部屋から抜け出せないヒロインには、“やりたいこと”がない。そして、部屋の外では、”やりたいこと“をやれないでいる。人世における選択技が彼女に無いことは、スーパーの場面や弁当を選ぶ場面がメタファーになっている。

趣里は言葉の区切りとか、苛立ちを表現するのにテンポとリズムでそれを表現してみせていた。赤い衣を纏った激情の女と、不器用な物書きの男という二人が、まるで「ベティ・ブルー」の男女関係を想起させるのも良かった。

相手役津奈木を演じる菅田将暉くんは、素顔は古風な文学青年、だが現実は「悪名高い雑誌」と記されているゴシップ誌の編集部に勤め、不本意な仕事じ黙々と従事している。

だが、映画の中では彼なりの意思と意見を与えている。システムに抑圧された羊のような覇気のなさには、爆発寸前の衝動が蠢いている。そんな津奈木にとって、いちいち社会のコードを破ってしまう寧子には、本人の困難とは別に規格外で自由な面白い生き物として、時に詩的な輝きを持って映っているのだ。

津奈木が寧子を好きになった理由が解りやすいのだ。そして津奈木の心情は、必然的に関根光才監督と多くの部分でシンクロしているように思われる。

津奈木は、躁と鬱の狭間で揺れながら“生きているだけで疲れる”人生を送っている寧子の同棲中の恋人。自身の不安定さ、生きづらさを持て余す寧子の怒りを日々ぶつけられるも、それをほぼ無言で受け止め決して深入りしないのが津奈木なのだ。

そんな津奈木の内にあるものは、寧子の視点から語られることはあまりはっきりとはしなかった。しかし、あのクライマックスでの屋上のシーンで、普通だったら寒さでパフォーマンスなんて出来ないくらい厳寒の中で、趣里ちゃんの尋常じゃない集中ぶりに目を見張ってしまう。趣里はすべての服を脱ぎ捨て裸になるのだ。

ここで寧子が津奈木に対して文字通り剥き出しのまま、本当に剥き出しの想いをぶちまけ、それに対して津奈木も初めて心を内を言葉にする。鬱の同棲相手と付き合って行く内に、かつて見たことないほどの鬱になる菅田将暉くんであるが、何故にその相手の寧子を見捨てないのか。愛というよりむしろ彼は彼女が躁鬱の躁のサイクルになるのを待っているのであった。

「あたしがあんたと繋がってたと思える瞬間、五千分の一秒を共有する重要なシーン。超自己中の他力本願女ともいえる寧子、躁鬱を抱えているのだが、このヒロインには他人まで鬱を移しかねない鬱陶しいパワーがあり、しかもブレないのだ。傷つきやすいくせに他者の痛みには鈍感なこの女を、映画はイイコ、イイコするように撮っているが、観ていて感動するようなイイコではなかった。

元カノ役の仲里依紗は、社会適応しながらエキセントリックな怪電波を放つお姉さんで、寧子の類似性が津奈木の恋愛傾向を端的に示している。

その他にも、田中哲司や西田尚美など、達者な演奏者たちが、各々のパートを固める盤石のバンド的編成。全体の語りはいわゆる新人監督の長編劇映画デビュー作と思えぬほど安定していた。

 

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