2017年9月に他界した「パリ、テキサス」などの名優ハリー・ディーン・スタントンの最後の主演作となる人生ドラマ。スタントン自身を思わせる一匹狼の偏屈老人が、風変わりな町の人々ととりとめのない日々を過ごしながらも、静かに死と向き合っていく姿をユーモアを織り交ぜしみじみとしたタッチで綴る。共演は映画監督のデヴィッド・リンチ、ロン・リヴィングストン、エド・ベグリー・Jr。監督は俳優で本作が監督デビューとなる「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」などの名脇役ジョン・キャロル・リンチが初メガホンをとった。
あらすじ:神など信じない現実主義者のラッキー。90歳の彼はアパートにひとり暮らし。目覚めるとまずタバコを吸い、身なりを整えたら行きつけのダイナーに寄って、店主と無駄話をしながらクロスワード・パズルを解く。そんな一つひとつの日課を律儀に守り通して日々を過ごしてきたラッキー。しかしある朝、突然倒れたことをきっかけに、自らの人生の終わりを意識し始めるのだったが…。子どもの頃に怖かった暗闇、去っていったペットの亀、戦禍の中で微笑んだ日本人少女。小さな町の住人たちとの交流の中で、彼は「それ」を悟っていく。スタントン本人の体験に基づくエピソードが描かれる。
<感想>先ごろ亡くなった名優ハリー・ディーン・スタントンが、亡くなる前の元気な内に撮影が終わって良かったですよね。ほとんど自分自身のような90歳の独居老人を演じている最後の主演映画であります。タイトルに制作者の愛と願いと、無事の撮影祈願がある。ハリー・ディーン・スタントンのことはまったく知らずにこの映画を観たので、何だか感動的な映画だと思えてならない。
とはいえ老名優の最期の姿をスクリーンで見ているわけで、映画の物語の実際のハリー・ディーン・スタントンが、ラッキーみたいな人物だったかどうかは関係なく、その一挙一手一投速、その表情の一つ一つに様々な感慨深く走る。
90歳の顔はとても綺麗で素敵でした。哲学的な映画だが、むつかしいことは言っていないのでよろしい。
いつもの家、いつもの道、いつもの店。一人で起き、冷蔵庫のミルクを飲み、体操みたいな運動を少しして、洋服に着替えて馴染みの人たちと会い、また一人で眠る毎日。判で押したような毎日の生活がユーモラスに描かれている。
その繰り返しだ。事件らしい事件は何も起きないが、彼の人生や人となりが浮かび上がる。静かに、しかし平和に過ぎてゆくミニマムな一日を、黙々と生きるスタントンのストイックな立ち振る舞いから目が離せないのだ。
その日々の先に、自らの死を意識する瞬間が訪れる、というのはある意味でとても幸せなことなのかもしれない。ドキュメンタリーのごとく、映画はラッキーの日々のルーティンを追い続けるのだが、起きてヨガの他に体操を繰り返すうちに、体がシャキッとするあたり、とても90歳とは思えない。
カウボーイ・スタイルで外出する時の歩くスピード、背筋のピシッとした腰の定まり方に驚く。雑貨店での買い物をし、その店の女主人から、娘の誕生日パーティのお誘いがある。喜んでスタントンが行くも、自分には孫みたいな可愛い女の子の誕生日パーティで、歌を披露するスタントンの歌声に上手いので驚嘆した。
スタントンの晩年の勇姿と脇役のデヴィッド・リンチの味わい深い演技を引き出し、酒場で戦友に会うシーンは、第二次世界大戦のことだから日本兵のことが出て来る。何だか、笠智衆を思わせる佇まいに思えてならない。
数ある出演作、調べてみたら「パリ、テキサス」「ツイン・ピークス」「グリーンマイル」(99)、「インランド・エンパイア」(06)「きっと ここが帰る場所」(12)「コックファイター」(13)「エイリアン ディレクターズ・カット」(13
)など、特に晩年の作品が気になりDVDにて鑑賞したいと思っている。
それと、初監督作とは思えないくらい洗練された監督術を見せたジョン・キャロル・リンチの、同胞である俳優に向けたカメラの眼差しが、優しく映し出している。
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