「ファミリー・ツリー」「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」のアレクサンダー・ペイン監督がマット・デイモンを主演に迎えて贈るヒューマン・コメディ。人口問題解決の切り札として、人間を小さくする技術が開発されたことから巻き起こる悲喜こもごもの人間模様をユーモアと社会風刺を織り交ぜ描き出す。共演はクリストフ・ヴァルツ、クリステン・ウィグ、ホン・チャウ。
あらすじ:人口が増え続けることで環境問題や食糧問題が深刻化していく中、その解決策として人間を1/14に縮小する画期的な技術が発明される。小さくなることで誰でも豪邸に住むことができ、大金持ちにもなれるのだった。低収入にあえいでいた平凡な男ポールは、現在の苦境を脱するため、妻のオードリーとともにこのダウンサイズ化を受けることを決意するのだったが…。
<感想>もしも人間が身長13cmにダウンサイズでき小さくなったら、自分が今持っている資産が何十倍にもなるとしたら、あなたは13cmの人生を選びますか?・・・こんな奇想天外だが、地球環境破壊が取り沙汰される現在あり得ない未来とも言えない物語を、圧倒的なリアリズムで描ききっているのだ。
人類を救う大発明。それは人間を13cmにする(ダウンサイズ)ことだった。もしもあらゆる人間を身長13cmにダウンサイズする技術が発明されたなら、この荒唐無稽なアイデアを、いたって真面目に追及することで、1本の映画に仕上げてしまった作品。
ダウンサイズというと、「ミクロの決死圏」や「親指トム」のような冒険譚やコメディを想像してしまうだろうが、その期待は見事に裏切られてしまう。ユートピアをめざした縮小社会にも貧困や格差はあるのだ。
人類の未来を描く(地球の温暖化)壮大な物語へと想像もしない展開を見せてくれるのに驚いた。さすがの正義漢マット・デイモンは、いつものハマリ役であるが、ベトナムの反体制運動家の女性を演じるホン・チャウの名演技が印象深かった。
環境保護主義者でベトナムの反体制派、政府によってダウンサイズさせられしまった果てに、自己で片足を失ってしまうという。ホン・チャウがノク・ランを演じたからこそ、映画の話題をさらったところはある。彼女はある意味で、この映画の心臓のようなものであり、助けが必要な人々を助けないではいられない、親切ではあるけれど決してナイスな人柄ではないという彼女の、キャラクターのインスピレーションは、まるで黒澤明監督の「赤ひげ」のようだった。
それでも、片足のベトナム難民を演じて注目を浴びている女優のホン・チャウと、デイモンの身体性をクローズアップした官能描写(ベッドシーン)は中々なもの。
ダウンサイズ後の世界は、ポールが聞いていたような夢のような世界とも違い、国境のようなトンネルを抜けるとスラム街があるなど、ダウンサイズ前と変わらないような世界であることが分かってきます。
それは、ダウンサイズによって革命的に解決される人類の諸問題(食糧、資源不足や住宅問題、経済格差など)と、人々の人生と生活のポジティヴな変化。だが、この映画はそこから一歩も二歩も先に進んで見せている。
夫婦で縮小化を決めたはずなのに、諸事情で妻が急に嫌だといい、夫1人だけがミニサイズなってしまった悲喜劇が、ペイン監督らしいブラックジョークで描かれている。離婚届けにサインをするのに、弁護士は普通の人間で、自分だけミニサイズなので、大きな字で書かなければならないのに一苦労するのも笑える。
少なくとも、現代生活に多くはびこるひどい社会的側面のことを描きたかったようですね。しかもそれを滑稽な方法でね。コメディは、シリアスな問題から距離を置くための方法として高く評価していると思います。
序盤こそ人間をミニチュア化するビジュアル的な楽しみもあるが、縮小直後の主人公の背景に映る、良く出来ているのだが、微妙に違和感を感じるドールハウスのような美術は秀逸であった。それがデフォルトになってしまってからは、あまりその設定が生かされていないように思いました。
それにしても、いつのまにか還暦を過ぎていたクリストフ・ヴァルツの枯れ具合に驚いてしまった。彼は国際的ミニサイズ・ビジネスを展開する怪しげな実業家を怪演している。その親友役に、ウド・キアが共演している。このツーショットを観るだけでも楽しい。
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