ミレーナ・アグスのベストセラー『祖母の手帖』を「エディット・ピアフ~愛の讃歌~」「マリアンヌ」のマリオン・コティヤール主演で映画化。実直で心優しい夫がありながら、療養先で若い帰還兵と運命的な出会いを果たしてしまったヒロインの激しく狂おしい愛の顛末を切なくも官能的に描き出す。共演はルイ・ガレル、アレックス・ブレンデミュール。監督は『海の上のバルコニー』などのニコール・ガルシア。
あらすじ:年代、南仏プロヴァンスの田舎町。両親と妹と暮らす美しい娘ガブリエルは、情熱的な運命の愛を求めるあまり、エキセントリックな振る舞いで周囲を困惑させてしまう。心配する母から“結婚か、精神病院か”を迫られ、無骨で真面目な季節労働者ジョゼとの不本意な結婚を受け入れる。夫に対し“あなたを絶対に愛さない”と言い切り、官能的な夜の営みは続けながらも、愛のない結婚生活を送るガブリエル。そんなある日、流産をきっかけに腎臓結石が発覚し、アルプスの療養所で6週間の温泉治療を受けることに。
<感想>第69回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、「フランス映画祭2017」(第25回)でも上映された本作は、女優としても活躍するニコール・ガルシア監督によるラブストーリー。
一直線の道の両脇に咲き誇る紫色のラベンダー畑、南仏の美しい夕景のほか、ラベンダーが色鮮やかに咲く南仏プロバンスの美しい風景に癒される。許されざる恋に身をこがすヒロインを演じたマリオン・コティヤールの、情熱的で妖艶な演技を堪能することができます。
地元の教師との恋に破れ、両親の決めた正直者で情の深いスペイン人労働者ジョゼ(アレックス・ブレンデミュール)と不本意ながら結婚。やがて、腎臓結石が原因で流産を経験したガブリエルは、温泉治療に訪れた療養所で負傷した帰還兵アンドレ・ソヴァージュ(ルイ・ガレル)と運命的な出会いを果たす。
監督のニコール・ガルシアが、ヒロイン役にマリオン・コティヤールを熱望し、なんと彼女のスケジュールが空くまで5年も待ったそうだが、なるほど本作を観ると、その理由が分かった。主人公のガブリエルが纏う身を焦がすような情熱、匂い立つような官能な世界感、一途な純粋性は、一見してエゴイストな女とみられるも、その女がこの上なく魅力的にしているからだ。
愛に理想を抱くガブリエルは、いつか自分の情熱を傾けられる男性が現れるのを待つ。そこへ、地元の教師との恋というよりも一方的な感情の女。田舎の村での彼女の型破りな行動は、スキャンダルとなり両親は困惑して、自分のラベンダー畑で働いている労働者のジョゼと強引に結婚させる。彼女は自由を奪われ失意に陥るが、妊娠に流産、腎臓結石が発覚し、アルプスの療養所で6週間の温泉治療を受けることになる。
その療養所で退屈を持て余していたガブリエルは、インドシナ戦争で負傷した若い帰還兵アンドレ・ソヴァージュと出会い、一瞬で運命の相手と確信、湧き上がる衝動のままに、激しい愛へと溺れていくのだったが…。やがては二人の熱愛と苦闘の日々が始まるのだが、アンドレは故郷のパリ、イヨンへ帰ることになり、彼女は妊娠したことを告げたくて手紙を出すも返事がなかった。
両親や夫のジョゼは妊娠を喜び、男の子を出産するも、彼女の心はアンドレ・ソヴァージュのことばかり、まるでストーカーのように彼に付き纏うような気配がするも、手紙は全部送り返される。
と言うのも、ガブリエルは、退院するもすぐに病気が悪化して亡くなってしまったというのだ。そのことが分かったのが、息子が7歳くらいになり、ピアノのコンテスト会場へ行く途中で、彼の住んでいるリヨンの街を車で通過した時、彼女は意を決して車から降りてガブリエルの家へと行くも、部屋は空っぽだったのだ。
果たして彼女は愚かな女なのか、あるいはすべての女性の密かなる欲求を体現する純粋な女なのか。対照的な男性二人が、ともに魅力的なだけに、答えは観る人それぞれに違うだろう。激情なヒロインを描いたドラマチックで、クラシカルな香りが漂う作品であります。
理想を求める女が波乱の歳月の末に、知った真実の愛の物語。ラストで、哀愁漂う姿で遠方をじっと眺めるガブリエルの表情に加え、「君に生きて欲しくて――」という意味深な言葉を囁く夫のジョゼの、深い献身的な愛の支えがあればこそ、彼女が生きている実感があるというもの。
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