不気味なピエロ“ペニーワイズ”と少年たちの対決を描いたスティーヴン・キングのベストセラー小説を「MAMA」のアンディ・ムスキエティ監督で映画化し、全米で記録的大ヒットとなりセンセーションを巻き起こしたホラー・サスペンス。子供の失踪事件が続く田舎町を舞台に、弟をさらわれた少年といじめられっ子の仲間たちが力を合わせて、ピエロの格好をした謎めいた存在に立ち向かっていくさまを、少年少女の瑞々しい青春ドラマを織り交ぜつつ、戦慄の恐怖演出で描き出す。主演は「ヴィンセントが教えてくれたこと」「ミッドナイト・スペシャル」のジェイデン・リーバハー。ペニーワイズ役には「シンプル・シモン」「アトミック・ブロンド」のビル・スカルスガルド。
あらすじ:1988年、アメリカの田舎町デリー。町では子供ばかりが行方不明になる不可解な事件が続いていた。ある日、内気で病弱な少年ビルの弟ジョージーも1人で遊んでいる時に何者かに襲われ、道端の排水溝に姿を消してしまう。以来、弟の失踪に責任を感じていたビルはある時、見えるはずのないものを見てしまい恐怖に震える。やがて、眼鏡のリッチーや悪い噂のあるベバリーなど同じような恐怖の体験をしたいじめられっ子の仲間たちと協力して、事件の真相に迫ろうとするビルだったが…。
<感想>スティーブン・キングの人気小説を、気鋭アンディ・ムスキエティ監督(「MAMA」)が映画化。子どもの失踪事件が相次ぐ田舎町で、「ルーザーズ(負け犬)・クラブ」を自称する子どもたちが、相手の最も恐れているものの姿となって現れる“それ(イット)”に立ち向かう姿を描いている。北米興行収入は3億ドル突破し、日本でもかなりの興収入でしょう。どういう訳か、狭い部屋で大入り満員の盛況でありました。
神出鬼没で変幻自在の恐怖を具現化したピエロのペニーワイズを演じたのは、スウェーデン出身のビル・スカルスガルド。父は「アベンジャーズ」「ドラゴン・タトゥーの女」のステラン・スカルスガルド、兄は「ターザン:REBORN」のアレクサンダー・スカルスガルドという芸能一家に生まれ育った、ハリウッドの注目株。本作では端正なマスクと191センチの長身を生かして不気味な笑みで忍び寄るペニーワイズを怪演し、見る者を恐怖のどん底に陥れていた。
メイン州の田舎街デリーの下水道に棲みついているベニーワイズは、人間の子供を餌食にして、27年に一度、大大的な「狩り」をする。ピエロの姿をしていることが多いけれど、状況に応じて他のものに、__それは子供にとって一番怖いものにも、姿を変えられるのだ。
そんなのズルイとあなたは思うだろうが、そう、ズルいんですね。だからこそ、本気で怖いのであります。「IT」初のハリウッド映画化となった今回の作品にも、“ペニーワイズ”はもちろん登場します。演じているのは、ビル・スカルスガルドであり、素顔はそこそこイケメンの俳優なのだけれど、ここでは狂気のピエロ顔メイクでほとんど別人と化しているのだ。
本作を一言で表すならば、「めちゃくちゃ元気が出るホラー映画」なんです。CGと派手な音響効果に、間違いなく怖いシーンが満載であり、物凄く怖いピエロが出て来るんですからね。
ですが、子供たちが成長して、ピエロの恐怖を乗り越える物語のおかげで、青春ストーリーものとしても、ホラー映画としても、とても良い爽快感が生まれているわけ。だから、ホラーが苦手な人でも観て欲しいですね。特に、戦隊ものや少年マンガ__徐々に集まった個性的な仲間たちが、成長して巨大な敵に立ち向かうような話が好きな人には絶対にお勧めですから。
「IT」の闇の象徴がペニーワイズだとしたら、光の象徴は7人の虐められっ子たち。人呼んで「ルーザーズクラブ」の面々であります。今回の映画の最大のヒットの要因は、この7人を演じる子役を完璧にキャスティングしたことだろう。
ある雨の日の夜に、吃音症で虐められている兄のビルの弟であるジョージが、赤い風船を追いかけて行方不明になる。以降、特に子供の行方不明者が増えて行き、また子供たちの前だけにピエロの幻が現れるのだ。一方、吃音症のビルは、それぞれの理由で虐められている6人の少年少女と仲良くなります。彼らはある出来事をきっかけに、子供の行方不明事件とピエロの関係に気づいて捜査を始めるのですが、・・・。
ピエロが余りにも怖いので、というよりも、ゾンビのような人間のお化けが出て来て一見分かりづらいが、ともかく本作の軸は大人の力を借りずに団結した子供たちが、ピエロ=ペニーワイズとの戦いで自身の恐怖をも克服し成長していくという純粋なる王道の青春ストーリーなのです。
大人びた女の子が父親に性的な"家庭内暴力"を受けていたり、他にも父親が子供を虐待するところ。とにかく、まともでない大人たちの理屈や言動がすべてである。女の子が初潮を迎えて、家の洗面台から血が吹き出すところは「キャリー」に似ている。
とにかくいじめっ子の年長者の男の子たちが、小学生の子供を虐めるという悪循環。一人づつ増えた仲間が、時には恐怖にくじけそうになりながらも、仲間と己と正義のために団結して戦う瀬鎚をする。という、ヒーロー映画的な展開や、大人不在の団結感にも胸が熱くなります。
ここで重要なのは、ピエロに片腕をもぎ取られて下水溝へ引きずり込まれた弟のジョージ。弟を死なせた罪悪感に苛まれたビルを始めとして、子供たちが各々抱える「恐怖」ペニーワイズによって明かされるそれらは、たいていが親子関係によるものであり、だから観客は7人の誰かには共感するだろうし、共感するからこそ、ペニーワイズが絶妙なテンポで仕掛ける生々しい恐怖のジャットコースターから逃げられなくなってしまう。下水道の中にある井戸、廃墟のお化け屋敷とか。
そんな演出の妙と同じくらい大きな役割を果たしている子供たちのかわいらしさといったらない。彼らの演技の怯える表情や、勇気を振り絞る表情にも、思わず守ってあげたいという感情が湧き出てくるはず。
彼らが作戦を練り、街のあちこちでペニーワイズに決死の戦いを挑んでいく姿には、80年代の青春アドベンチャー映画「スタンド・バイ・ミー」とか「グーニーズ」とかの楽しさも重なる。その「ひと夏の冒険」のエバーグリーンな輝きには、きっと誰もが深く共感できるに違いないから。
ですが、しかし、原作を読んだことがある方ならばご存じかもしれない「IT」に置いては、子供時代はあくまで「前フリ」であります。本当に怖いのは、過去のトラウマが悪夢的に暴走する「大人編」なのです。
今回の物語の27年後を描く「第2章」の公開は、今から27年後ではなく、2019年の秋に決定したもの。その完成を心待ちにして下さい。
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