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ペルシャ猫を誰も知らない★★★・5

『酔っぱらった馬の時間』などの作品で、クルド人が置かれている過酷な状況を描いてきたバフマン・ゴバディ監督。本作は、今までの作風とはガラリと趣を変え、大都市テヘランで音楽に生きる若者たちを描いたセミ・ドキュメンタリー風の作品。イランでは音楽や芸能は政府によって厳しく統制され、コンサートを開くにもCDを出すにも、検閲を受けなくてはならない。
主人公2人を狂言回しにテヘランの現在の音楽シーンを次々に見せてくれる本作だが、知れば知るほど、いかに自由がないか、とくに表現者にとって厳しい世界かを私たちは知る事になる。その姿は、イランで自由に映画が撮れないゴバディ監督の姿に重なる。実際、本作を最後に、監督はイランを後にしたという。
あらすじ:ネガル(ネガル・シャガギ)とボーイフレンドのアシュカン(アシュカン・クーシャンネジャード)は、テヘランでバンドを組んでいた。だが、音楽の自由のないイランでインディー・ロックを続けることに限界を感じていた二人は、ロンドンで演奏したいと夢見るようになる。何よりも国外に出るためにはアシュカンのパスポート取得が先決で……。(作品資料より)
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<感想>謎めいたタイトルだが、その真意を知れば誰しも作り手の切羽詰まった表現者としての苦悩を理解するに違いない。その作り手とはイランとイラク国境のクルド出身のバフマン・ゴバディ。「酔っ払った馬の時間」、「亀も空を飛ぶ」で知られる監督である。
舞台は現代のテヘラン。クルドを描き続けた監督が次に選んだのは、当局の目をかいくぐって音楽活動を続ける若者たちの群像ドラマ。演奏許可が下りないテヘランを離れて、ロンドンで公演することを夢見る二人組のロッカーが、便利屋と手を組んで違法なパスポートやビザを手に入れるために、バイクに乗って街を走り回る。
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そこから見えてくるのは、自由であるべきはずの音楽活動を禁じる政府の理不尽な圧力であり、それに果敢に抵抗するミュージシャンたちの悲痛な叫びである。興味深いのは、彼らの不自由な活動を逆手にとった強烈な風刺の姿勢。彼らが訪ねるラッパーは歌う。「この国では金が第一、第二に神と、・・・」政府が目をひんむくような台詞が続くが、その風刺も結局は悲劇的な結末になる虚しさに怒りが込み上げてくる。
一応フィクション仕立てだが、実質「テヘラン音楽」の活動を抑圧された世界でこそ、人間の中の“ロック”が目を覚ます。イランのアンダーグラウンドに、こんな多様で豊かな音楽シーンが広がっているとは知らなかった。
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しかも文化規制があるため基本的に非合法なのだから。だが、若者たちは隠れてビートルズ、ジョイ・ディヴィジョンやストロークス(ポスターやTシャツが登場する)などに親しみ、ロックバンドを組む。牛小屋でメタルを演奏する連中もいれば、「ここはジャングル、食うか喰われるか」とフロウをぶちかますラッパーもいる。
そして独特のブルースを絶唱するミルザーってバンドのおっさんシンガーのド迫力さ。
これは単なる反対制ミュージシャンの記録ではない。ゴバデイ監督自身がテヘランでの、映画作りで遭遇した自らの体験を基に、その苦しい胸のうちをミュージシャンに託して、1本の映画にまとめたいという本物のパンク魂、ここにあり!
公安の目を盗んでゲリラ的に無許可撮影を続けた監督は、本作を最後に亡命。むろんイランでは映画も未公開です。
2016年DVD鑑賞作品・・・68Image may be NSFW.
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