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エル・クラン ★★★

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アルゼンチンで起こった事件を映画化し、第72回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞に輝いた犯罪ドラマ。平和な街で多発する富裕層だけを狙った高額の身代金誘拐事件をきっかけに、ある裕福な一家に隠された秘密が描かれる。近所から慕われるプッチオ家の主を、『瞳の奥の秘密』などのギレルモ・フランセーヤが怪演。スペインの鬼才ペドロ・アルモドバルが製作を務め、『セブン・デイズ・イン・ハバナ』などのパブロ・トラペロがメガホンを取る。
あらすじ:1983年のアルゼンチン、裕福なプッチオ一家は近所の評判もよく、幸せに生活していた。ある日、二男が通う学校の生徒が誘拐され消息を絶つ。それ以来、一家の周辺で金持ちだけがターゲットにされる身代金誘拐事件が続発し、近所の住民たちは不安を募らせる。一方、いつも通りの生活を送るプッチオ家では、父アルキメデス(ギレルモ・フランセーヤ)が鍵のかけられた部屋に食事を運ぶと……。誘拐事件に街がざわつく中、プッチオ家ではいつもと変わらない穏やかな時間が流れていくのだったが…。

<感想>この映画は軍政から民主制に移行する途上の80年代。アルゼンチンで実際に起こった一連の誘拐、監禁事件を取材しています。それでいて、監督のパブロ・トラペロは父親のアルキメデス・プッチオ率いる犯罪一家を批判することなく、彼らの日常を乾いたタッチで描くことに徹しているのだ。

ある日、長男のアレハンドロは、友人と車にいるところをいきなり何者かに拉致される。ところが犯人は、驚くことに自分の父親だった。友人を拘束した父は、母親の作った料理を2階の監禁室へと運ぶ。

その後のあらすじ;誘拐事件に街が騒然とする中、プッチオ家はいつもと変わらぬ生活をしていた。やがて、アルキメデスは人質の家族から多額の身代金を受け取ったが、人質は家へ戻ることはなかった。つまり、父親がその人質を銃殺して埋めてしまったから。その後も一家は、仕事(誘拐、監禁)を続けるが、彼らを疑う者は誰もいなかった。だが、息子のアレハンドロに恋人モニカができて、“仕事”から抜け出すと言い出した時、家族の歯車が狂い始める。

面白いのはこの一家が、独裁政権時代に甘い汁を吸ったエリート官僚一家であり、民主派のアルフォンシン政権誕生によって失脚した点である。彼らは裕福な暮らしを維持するために、誘拐身代金を必要としたが、同時にかれらのビジネスは、民主制権下の社会不安を煽るため、旧政権の大物から庇護を受けていたことが匂わされるのだが。

主人公が官僚時代にどういう役割を担っていたのか。そこを描いていないのも残念だし、父親に対する息子の存在が、独裁政権下の官僚と重なって見えたけど、恋人ができて誘拐犯から足を洗ったのに、弟がデブになって戻ってきて、父親の誘拐を手伝うことになるも、失敗してしまうのがおち。単なる犯罪スリラーとするには裏があり過ぎるのが興味深いですよね。

この事件で一番重要に感じられたのは、その事件をモチーフにして家庭内での父と子の関係を描くことにある。食前に祈りを捧げる場面が象徴的ですが、劇中ではプッチオ家の食卓が繰り返し、まるで儀式のように描かれている。それはまるで、父の支配下でみんなが家族を“演じられされている”ようにも見えるのだが。

外からみたらこの一家が身代金目的で、誘拐、監禁を行っているなんてとても思えませんからね。モンスター父親は映画でよく描かれますが、この父親はワースト級ですから。家族を見捨てる父と、保身ゆえ家族を犯罪組織にしていく父とどっちが酷いだろう。本人はむしろ愛と思っているようだが、特にプッチオ父親と長男の絆の宿命は鮮烈であり、最後まで尾を引いてしまうのだ。

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