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Channel: パピとママ映画のblog
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君と歩く世界 ★★★.5

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両脚を失い絶望した女性が、ひとりの男性との出会いを経て再び人生に希望を見出していく姿を描いた人間ドラマ。

主演は「エディット・ピアフ 愛の讃歌」のオスカー女優マリオン・コティヤール。監督は「真夜中のピアニスト」「預言者」の名匠ジャック・オーディアール。南仏アンティーブの観光名所マリンランドでシャチの調教師として働く女性ステファニーは、事故で両脚を失う大怪我を負い、失意のどん底に沈む。そんなある時、5歳の息子をひとりで育てているシングルファーザーのアリと出会い、不器用だが真っ直ぐなアリの優しさに触れたステファニーは、いつしか生きる喜びを取り戻していく。

<感想>仕事がらみの事故で膝下をなくしてしまったシャチの調教師の女、と粗暴だが心優しき子連れの格闘家との触れ合い、よく出来たラブ・ロマンスでもあるが、それには違いないけれど、筋に綾があって、しかも映画的密度も十二分に濃い。まるで異なる環境に身を置く2人が出会い、友情とも愛情ともつかない関係を紡いでいく。
両脚を失って生きる喜びも希望も奪われた彼女が、社会の底辺を彷徨い、愛することも愛されることも知らないようなシングルファーザーの男アリと出会う。賭博ボクシングで暮らしを立てる、己の肉体ひとつで自己実現するアリの逞しさと美しさに感化され、生命力と肉体性を取り戻していくステファニー。お話は甘くなりがちなのだが、かえって親しみのもてる作品に仕上がっているに感心する。

義足で歩く女と、血なまぐさい格闘でその身を傷つけお金を稼ぐ男との、身体技能の対比。しかし、アリは率直で親切な反面、相手を気遣う繊細さに欠ける雑な人間だった。ステファニーが残った太腿に“右、左”とタトゥーを入れ、金属製の義足を装着した姿を「ロボコップ」と呼ばわり。
だが、暗黙の内に彼女の心情を知り、アリに抱えられ、まぶしい海に出ていくステファニーの満ち足りた表情の、なんと崇高で美しいことだろう。

彼女が真剣に愛したくても、アリの人間的未熟さが常に邪魔をする。彼女と同じように彼が成長するためには、いったいどれほどの代償が必要になるのか。
そんなことを考えている我々の目の前に「人が本当に成長するためには、やはり大きな痛みや喪失を伴わなければならない」ことを突きつける。

それは、アリが寒い雪が降る土地へ格闘技の合宿に行った時、息子のサムがやって来る。そして父子との楽しいソリ遊び、氷の張った湖で遊んでいる隙に息子が厚い氷の下へ落ちてしまう。アリは必至でその厚い氷をこぶしで壊して、息子を助け出すのだが、かなり重症で意識が戻らない。この時のアリの喪失感と哀しみは計り知れない。ボクサーの拳は戦うたびにひび割れ、打ち砕かれ決して元の状態には戻らない。だが、時を経て再生した傷は、以前よりも逞しく丈夫になる。

しかし、この作品の核となっているのは役者だろう。コティヤールの演技には不自然なところがないし文句なく素晴らしい。相手役を演じた現在上昇中のマチアス・スーナーツ「闇を生きる男」も憎めない男にハマって見えた。
2013年劇場鑑賞作品・・・70  映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキングへ



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