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海よりもまだ深く ★★★.5

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「そして父になる」「海街diary」の是枝裕和監督が、夢ばかり追い続けて妻子にも愛想を尽かされた甲斐性なしのダメ男を主人公に贈るコメディ・ドラマ。冴えない人生を送る男が、ひょんなことから年老いた母の家で、別れた妻子と一晩を過ごす中で織りなすほろ苦くも心沁み入る人間模様をユーモラスなタッチで綴る。主演は「歩いても 歩いても」「奇跡」「ゴーイング マイ ホーム」に続いて4度目の是枝作品出演となる阿部寛。共演に真木よう子、小林聡美、樹木希林。

あらすじ:自称作家の中年男、篠田良多。15年前に新人賞を受賞したものの、その後は鳴かず飛ばず。ギャンブル好きで、今は“小説のための取材”と称して探偵事務所で働く日々。当然のように妻の響子には愛想を尽かされ、一人息子の真悟を連れて家を出て行かれてしまった。その真悟との月に1度の面会が何よりの楽しみでありながら、肝心の養育費はまともに払えず、おまけに響子にも未練タラタラで、彼女に恋人ができたと知り、本気で落ち込んでしまう始末。そんな甲斐性なしの良多にとって頼みの綱といえるのが母の淑子。夫に先立たれ、団地で気楽なひとり暮らしをしている彼女の懐を秘かに当てにしていた。そんなある日、真悟との面会の日を淑子の家で過ごす良多。やがて真悟を迎えに響子もやって来るが、折からの台風で3人とも足止めを食らう。こうして図らずも一つ屋根の下で、一晩を過ごすハメになる“元家族”だったが…。

<感想>ある団地に一人住まいをする母親と、和菓子屋に嫁いだ姉、文学賞を取ったけれど鳴かず飛ばずの売れない作家の良多と、彼の別れた妻と息子が織りなす家族ドラマ。家族のことを思い浮かべるのは、だいたい食卓の光景ではないだろうか。

この映画の中でも、団地に住む母親が筑前煮を作っているシーンで始まる。息子の良多は母親を訪ねるために駅前で立ち食いソバを食べる。ケーキをみやげに買ってゆき、団地につくと仏壇の大福を食べ、亡き父親の形見の品物とか、金目の物を物色し、挙句には母親のヘソクリ探しをする。そこへ母親が帰って来て、息子がいるのを嬉しそうに喜ぶ母親が映し出されるのだ。

母親はカルピスを冷凍庫で凍らせてアイスクリームの替わりにする節約家だ。そんな年金暮らしの母親の家を訪ねて、お金の無心をする息子に阿部寛が扮している。主人公の良多は、15年前に賞を獲ったきり鳴かず飛ばずの小説家。小説の題材のためにという言い訳で、興信所で探偵として働いているが、妻子にも見捨てられそれでも元妻に未練タラタラであり、良多が生活に困窮してもがく姿が、見ていて情けなくなるくらいこれでもかというくらいに、容赦なく現実的に描かれている。真面目に働いていればこういうことにはならなかっただろうに。一攫千金を狙って、有り金はたいてギャンブルをする男っているんだよね、世間には。

生活費と養育費と息子へのプレゼント代の工面をしようと必死な良多が、興信所に内緒で危ない取引をしたり、それで得た金を迷わずに競輪につぎ込むというクズっぷりは、コミカルなタッチながらもかなり悲惨なのだが、あらゆる細かなディテールの積み重ねが、不思議に共感のような心配のような妙な感情を揺さぶってくるのだから。

月一度の息子との面会に、元妻に渡す養育費とプレゼントの野球のグローブとスパイクを買うための金の工面に四苦八苦するのが辛い。それでも、何とか若い同僚に金を借りて息子にプレゼントを買ってやる。

嬉しそうな顔の息子を見て、元妻に男ができて再婚の話が持ち上がっているのを耳にして、そっと探偵事務所の仕事のついでに後を付けて、その男の品定めをするのだ。

それに、母親には樹木希林が扮しており、この2人を見ていると「歩いても歩いても」の親子を思い出すが、蝶々の話もここでも亡き夫が迷い出て来ると言う設定で、「いなくなってからいくら思ってもダメよ、目の前に居る時にね大切にしないと」、離婚というテーマも盛り込んでおり、「幸せってのはね、何かをあきらめないと手にできないもんなのよ」という、「私は海より深く好きになった人なんていないけどさ」樹木希林の母親と阿部寛の息子とのやりとりが絶妙であり、「こんなはずじゃなかった」と、人生は思い通りにならないものだが、人や物への執着を捨てれば少しは楽に生きられることを、喩えて語るのが良かった。その他の配役もベテラン揃いでさすがに上手いと思いました。
家族と人生というテーマを掘り下げているのだが、監督自身が19年間住んでいた団地がメインの舞台ゆえか、作品のタッチが軽やかであり、カレーうどんを作って、昔のように家族揃って食べる風景に、そこへ台風という嵐が登場して、帰れなくなった元妻との間を取り持つ母親の健気なところが自然でさすがに大御所と拍手。そして、そんなクズな男の良多に愛着さえ湧いてくるなんてね。それは、彼が本当に欲しいものは金ではなく、叶えられなかった“夢”だからだろう。

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