モヒカン故郷に帰る　★★★

『横道世之介』などの沖田修一が監督と脚本を担当し、数年ぶりに故郷に戻った売れないバンドマンが余命わずかの父親のために奮闘する姿を描くコメディードラマ。恋人の妊娠を報告するために瀬戸内海に浮かぶ故郷の島に帰るバンドマンを『舟を編む』などの松田龍平が、昔かたぎの頑固な父親を『悪人』などの柄本明が演じる。共演は、前田敦子、もたいまさこ、千葉雄大ら。松田のモヒカンヘアでのパフォーマンスや、松田と柄本の広島弁を駆使したひょうひょうとした掛け合いが見どころ。
あらすじ：プロのバンドマンになるべく東京で活動していた永吉（松田龍平）は、付き合っている由佳が身ごもったことを報告するために数年ぶりに広島の島へ戻ってくる。頑固な父親・治（柄本明）は息子の永吉につっけんどんな口調で接するが、内心はうれしくてその夜、島民たちを誘って大宴会を開催。しかし、宴会の最中に治が倒れ、がんであることが発覚し、余命宣告を受ける。永吉は父親の喜ぶ顔が見たいと奮起するも、なかなかうまくいかず……。

＜感想＞この監督作品は私は好きなのだから、「南極料理人」「キツツキと雨」、「横道世之介』「滝を見に行く」も観ています。というか、この監督の作品のコメディ・センスを高く評価しているから。

しかし、主人公役を演じた松田龍平のマイペースなボソボソと喋る話方が気に入らない。それに、バンドマンといってもデスメタルのロックバンドで、私にはこういう音楽は何がなんだか理解できないのだ。ただただ、ガンガンと大音響で鳴らしたてて、歌も歌詞も何を言っているのか判らないくらい酷いものだ。こういうハードロックバンドのボーカルを演じるのは、弟の翔太の方が似合っていると思うのだが。

相手役の彼女には、前田敦子ちゃんが演じており、「もとりあるたまこ」もそうだが、彼女は最近メキメキと上手くなっている。後半ではお腹が大きくなった嫁を演じており、自分の仕事ネイリストなので、姑に真っ赤なマニキュアを塗ってやる。

それに、両親役の”ＹＡＺＡＷＡ”のエイちゃんが大好きな頑固親父を、柄本明が飄々とした演技でベテランの域を超えて素晴らしいのだ。故郷が広島らしく広島カープの大ファンの母親を、もたいまさこも実に自然体でうまい。辛いことや悲しいことがあっても、カープに声援を送ることでストレスを発散させているようだ。それに長男の嫁を温かく見守り、おふくろの味の料理といって、「何でも麺つゆを薄めて調味料に使えば美味しいよ」なんて教えてくれる。

結婚報告に故郷へ帰った息子が、父親が末期癌で余命幾ばくもないと知らされ、最後の親孝行をしようと頑張るのだが、喜劇だからして、親父に何でもして上げるとばかりに、食べたいものは？・・・「ピザを喰いたい」と言えば、島にはピザ屋なんてないから、広島のピザ屋、３軒に電話をして親父がどうしても死ぬ前にピザを食べたいと言っているから配達してくれと頼みこむ。だから、島への定期便船で宅配ピザ屋が、ウィンナーの入ったピザを届けに来るのだが、とても家族で食べる量ではなくたくさん頼んだので、後でピザは近隣に配るのかもね。

親父が地元の中学生の吹奏楽団の指揮をしており、普通だったらクラシックを演奏するだろうに、無理やり自分の大好きな矢沢永吉の曲「アイ・ラブ・ユー、ＯＫ」を吹奏楽団に演奏させているのだ。病院と中学校が真向いにあり、父親の病室の窓から見えるようにと、学校の屋上から吹奏楽団に矢沢の曲を演奏させて、息子が指揮をしているのも微笑ましく映る。
その病院でのエピソードで、息子に「俺は癌なのか」と聞くと、息子より早くに、父親の隣のベッドの患者が顔は出さないが、「チーン」「チイ～ン」と声を出せない患者が慣らすベルの音が面白かった。

最後の願いが、息子の結婚式を見たいと言うので、父親が入院している病院で急遽結婚式をやることになる。それで、嫁の母親が美保純で、下の妹２人を連れてやってくるのだ。その日は台風で、どしゃぶり大雨の中結婚式が行われ、神父も船が来ないので急遽入院中のシスターが神父の役をする。

そして一番感激したのは、息子が父親のために白いスーツを着て“ＹＡＺＡＷＡ”に成りすまして父親の前に現れるのだ。本物かどうかは区別がつかないと言うわけではないが、死期間近の父親には、息子のしてくれることが嬉しくてしょうがないのだ。始終ドタバタ劇でも、何か心温まる演出の力で面白おかしく最期まで観られました。
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